アメリカの大学院に進学するためには、よほど特別な専攻を除いて大学院ごとの試験というものはありません。しかしながら、希望の大学院に合格するためには、様々な準備が必要となります。これが案外な大仕事でして、もちろん、願書提出の締め切りが近くなってから始めたのでは到底間に合いません。極端な話、将来大学院に進学しようと考えているのならば、学部入学当初からそのことを視野に入れておきたいところです。以下、一般的な大学院受験の手順らしきものをご紹介します。学校や、専攻によって事情は異なってくると思いますが、大まかな参考にはなると思います。
STEP 1: GPAは大切に
GPA、アメリカの大学生ならば誰でも気にする、評定平均値。学校によって多少システムは異なりますが、通常、Aを4.0点、Bを3.0点、Cを2.0点、Dを1.0点・・・などとして、これまでに履修した科目の平均をとったものが、GPAと呼ばれる数値です。全てAならばGPAは4.0。逆に、GPAが2.0を下回るようだと退学の危機です。
大学院入学に通常要求されるのは、最低GPA3.0。有名校ならば3.5、超一流の学校となると、限りなく4.0に近い値が求められます。しかも、この数字が関係するのは合否判定だけではなく、入学してからの奨学金や、Teaching
Assistant、Research Assistantなどの仕事がもらえるかどうかにも大きく関わってきます。
アメリカの大学で高いGPAをキープするのはなかなか困難ですが、卒業にかかった年数などは考慮されないので、場合によっては学部卒業に4年以上ゆっくり時間をかけるのも一つの方法です。その他にも、比較的簡単な一般教養科目で点数を稼いだり、また逆に上手にS/U制度を利用したり、万一失敗した場合には再履修するなど、とにかくあらゆる手段を尽くしてGPAを上げて下さい。
学部中に転学した場合、GPAもそのまま次の学校に移される場合と、履修済み学科は全てGPAの計算に関係ないPASS、として扱われる場合があります。入学してから初めの二年間で失敗してしまった場合、転学によって、履修済みの単位を失うことなく、上手くGPAだけを白紙の状態に戻すことも可能です。これは、ケースによって違うと思うので、興味があればそれぞれの学校で調べてみてください。
日本の大学からアメリカの大学院に行く場合も概ね同様です。とりあえず全優を目指して成績を稼いでください。
STEP 2: 教師と仲良く
大学院入試の合否を決める重要なファクターの一つが、大学教授からの推薦状です。ほとんどの大学院が、最低3通の推薦状を要求してきますが、何を書いてもらうかはもとより、誰に書いてもらうか、もかなり結果に影響してきます。自分のことを良く知っている、自分の大学院での専攻と関連のある教授に書いてもらうのが一番なのですが、それでもやはり、助教授よりも教授、ただの教授よりも学部長からの推薦状の方が強力なのは確かなようです。その研究分野で権威のある教授からの推薦状というのもオイシイですね。
早い段階から、何人か推薦状書いてくれそうな候補として目星をつけておき、その教授の授業は必ずイイ成績を取る、特に用はなくても授業後やオフィスアワーに話に行く(その教授の研究について質問するとか)、などしてコネクションを作っておくと、後で推薦状を頼むときに頼みやすくなります。仲の良い教授ならば、推薦状の内容もきっとイイ物を書いてくれることでしょう。大学院に行くつもりなんだけれど、そのときは推薦状頼むよー、みたいなことを普段から言っておくのも良。
ちなみに、推薦状を頼むのも早い方がイイです。頼んですぐに書いてくれる人はそうそういないので。締め切りが過ぎても一向に書いてくれない教授もざらです。頼んだ手前、あまり急かすワケにもいかないでしょうから・・・。締め切りの三ヶ月ほど前に頼んでおけばまあ大丈夫だと思います。中には、自分で原稿を用意してこい、などと言ってくる教授もいるので、そんな時はココのサイトなどを参考にして丁寧に書いて下さい。できれば英語ネイティブの人に見直してもらって下さい。
STEP 3: 志望校を考える
大学院に関しての情報を掲載した本や雑誌、ウェブサイトは数多くあります。絶対にここの大学院!という強い希望がないのならば、これらの雑誌やインターネットから探し始めるのが良いと思います。US
News & World Report の大学院ランキングなどが有名です。有料情報となっているので、オンラインで支払いをしないと見られないのですが、個人的には代金を払っても見る価値は十分あると思います。学科ごとのランキングだけでなく、学生数、学費、合格率、合格者の平均GPAなどなど、様々な情報が得られます。こういったランキングの中から、自分のGPAや学費、ロケーションの希望などと相談して絞ってみましょう。
だた、これだけだと、流石にどんな研究を盛んにやっているのか、どんな教授がいるのか、までは分からないので、プリントアウトしたランク表を持って、教授なりアドヴァイザーなりの所へ相談に行って下さい。また、各大学院のウェブサイトを見ると、より多くの情報が得られるでしょう。自分の興味のある研究をやっている教授に直接E-mailを送ってみるのも良いでしょう。できるだけ多くの情報をあつめて、最終的には、志望校を5校前後まで絞り込んでください。推薦状を頼まなければいけない関係上、10も20も願書出すワケにはいかないので・・・。本命校、滑り止め校、など、受験校のランクをある程度ばらして願書を出すのが無難。この辺りは日本の高校、大学受験と同じですね。また、レベルの高い大学院は、やはり奨学金を得づらいので、場合によってはその辺も考慮に入れて決定して下さい。
STEP 4: 共通テストを受ける
各学科によって異なりますが、多くの大学院では、TOEFLとGRE
(General、Subject)などの共通テストのスコア送付を要求してきます。TOEFLは、皆さんご存じの、外国人向け英語テスト。必要な点数もまた、各大学、各学科によって変わりますが、600点近い高得点を要求している大学院も少なくありません。ただし、アメリカ国内の大学に一定期間以上在学していた場合は免除になることもあります。
GREも、TOEFLと似たような形式のテストです。ただしこちらは、アメリカの学部卒業生用のテストですので、英語の難しさは生半可ではありません。Verbal、Analytical、Quantitativeの三項目で構成されているのですが、特に、難解な語彙を問うてくるVerbalは、我々非英語ネイティブにはかなり厳しいものがあります。一応、頻出単語集などはあるのですが、1週間2週間の付け焼き刃でナントカなるようなレベルではないです。テストまで期間が短い場合は、ここはもう諦めても良いでしょう。ネイティブでも諦めて、全く問題を読まずにランダムに選択肢を選んでいる学生もいました。(一応考えて受けた自分よりも良い成績を取っていた・・・。)
一方、算数、数学であるQuantitativeは比較的簡単です。理系なら十分満点を狙えるレベルですので、ここで点数を稼いで下さい。Analyticalは、近年筆記が導入されて、ますます受けづらくなってしまったのですが、勉強次第で点数を伸ばしやすい部分だと思います。
TOEFLは、一番良い結果だけを送ればいいので、満足できる点数が取れるまで、(受験料高いけど)それこそ何度でも受けられます。GREはシステムが少々異なり、それまでに受けた成績が全て記録に残ってしまいます。過去の成績をどの程度気にするかは、それこそ各大学の審査官次第ですが、あまりにひどい成績が残るとちょっとカッコ悪いですね。できるだけ早い時期から勉強し始め、何度もサンプルテストを受けてから本番に臨みたいところです。
また、学科によっては、GRE Subject と呼ばれる、専攻科目ごとのテストを要求される場合があります。これは、上記のGRE General とことなり、受験できる機会が非常に限られています。
TOEFLもGREも、コンピュータの勉強ソフトが市販されているので、それらを使って勉強するのがオススメです。
STEP 5: 作文を書こう
Statement of Purpose。学科によって、それこそ要求される字数は全く変わってくるのですが、内容は概ね、「これまで何をしてきたか、そしてこれから何をしたいのか」といったことになってきます。Statementofpurpose.com や Infozee.com、そして市販の書籍などを参考にして、十分時間をかけて書いて下さい。一度書き終わっても、何度も見直して、完璧になるまで修正を繰り返して下さい。アドヴァイザーや教授に、学部での研究内容が正しく簡潔に伝わるように書けてるかチェックしてもらって下さい。そしてやはり、英語ネイティブのチェックも必要でしょう。
お世辞にも書きやすいテーマではないのでしんどいのですけれど、一度書き上げれば、あとは各大学の要求に合わせて編集するだけで良いのでその点は楽です。特に、GPAやGREに不安がある場合はココが唯一の挽回点なので、気合い入れて世紀の大傑作を書き上げて下さい。
STEP 6: いよいよ願書作成
最近では、インターネット上でできる、オンラインアプリケーションが主流になっています。とはいっても、オンラインでできるのは願書の一部で、残りはダウンロードして印刷、郵送という手順を踏む必要があったりして少々ヤヤコシイです。ここはもう各大学院のウェブサイトから調べてもらうしかなさそうです。一般的には、まず学科のページまで行き、そこからProspective
Students、もしくはAdmissionという項目を見ると、願書の作成方などが見つかると思います。
願書を作成していると、まず確実に、何を書いたら良いのか分かりづらい欄がでてくると思います。そういう場合は、そこに記載されているアドレス、または、受験する学科のオフィス宛にE-mailで質問して下さい。大抵の場合、二、三日中に親切に返答してくれます。万一無視されるようだったら、質問の送り先が不適切だったと思って、別の所へ送ってみて下さい。(自分の担当の仕事以外は絶対手を出さないアメリカ人。)
かなり時間もかかるし、大学の説明と、学部の説明と、学科の説明で食い違ってるところがあったり、ホントにこんなの見るのかと疑わしいような変な内容を書かせる大学院もあります。例えば、MITの願書に至っては、学部で受講した全てのクラスの単位数、スケジュール、使用した教科書、成績、をわざわざ専用のフォームに全て打ち直させて来ます。そのくせに明らかに欄が足りなかったりして。ホントにフラストレーションが溜まる作業ですが、この面倒な作業も受験のスクリーニングの一貫だと思って頑張って下さい。
学部の成績はもちろん、一年間分の授業料+生活費の支払い能力を証明するための、銀行の残高証明など必要になってくると思います。各大学院のウェブサイトで必要な書類を調べて、早めに用意して下さい。もっとも、一番メインの願書が送られていて、受験料が支払われてさえいれば、書類が多少欠けていても、それだけが原因で不合格にされることはまずないです。普通は、親切に、これこれこの書類が足りないですよー、ってE-mailで知らせてくれると思います。まあ、キチンと用意しておくに越したことはないですね。
真偽の程はどうも定かではないのですが、大学院によっては、願書の先着順に奨学金が決定されてしまうところがあるそうです。締め切りをチェックして(留学生の締め切りは国内学生よりも大抵1〜2ヶ月早いので注意)、できるだけ早くに願書を提出しましょう。また、郵送の際は、配達証明をもらっておくと安心ですね。
STEP 7: 結果を待つ
さて、無事に願書の提出が済んだら、あとは待つのみです。合否の結果は、E-mail、郵送、電話のいずれかによって伝えられます。ウェブサイト上で審査の進捗状況が見られるところもあります。結果が出るまでの期間はかなりバラバラです。早いものは2週間程度、遅いものは3ヶ月以上かかる場合もあります。もし、書類の不備を伝えるE-mailなどが来たら、すぐに不足分の書類を送りましょう。大学院の合否判定と共に、奨学金の有無も伝えられることもあります。
ここまで、一般的な大学院受験の手順を紹介してきましたが、各大学院、学部、学科によっていろんな点で違いはあると思います。その辺はそれぞれ個別にチェックしてください。それでは、皆様の大学院受験が上手く行きますよう!